惚れた弱み

 

殺さなきゃいけないのに。

重い刀の一撃をひらりと後ろに跳んでかわし、猿飛 佐助はそう思った。

昨日の夜に降った雨で、地面は少しだけしめっている。

殺さなきゃいけないのに・・・。

 こんなんじゃ忍び失格だよ、と佐助は両手に持っている巨大な手裏剣を構え、顔をしかめる。

 その殺さなければいけない相手は独眼竜の右目、片倉 小十郎。

小十郎はそんな佐助の顔を見て、訝しげに眉をひそめた。

やば・・・!

佐助は慌てて表情をとりつくろった。

それに気づかない訳がなかったが、小十郎は無言で刀を一閃させた。

「おっと・・・」

佐助はそれを軽く跳んで避ける。

ああもう、なんでこうなっちゃったかな・・・。

佐助が偵察の任務を甲斐の虎、武田 信玄に言いわたされたのが二日前、行き先は奥州だった。

その任務の途中で、佐助は小十郎に見つかってしまった。

どうやら小十郎は、畑に行ってきた帰りだったみたいだが・・・。

村の近くの林で小十郎を見つけた佐助は、慌てて木の陰に隠れたのだが、バレてしまった。

見つかっちゃったんだから、殺さなきゃいけないのに・・・。

それが出来ないなんて、忍びとして情けない。しかし、

佐助は何故、それが出来ないのか薄々、気がついていた。

殺せないのはきっと・・・、

「おい、なにを考えてやがる」

「え?」

突然、小十郎に話しかけられて、佐助は自分が考え事にふけっていた事に気がついた。

忍びとして訓練されているため、考え事をしていても体は無意識に動いていたが、

それでこの男に勝てるわけがない。

案の定、佐助の視界に、振り下ろされる刀が閃いた。

避けられな・・・!

まさに死を覚悟した瞬間、佐助の首筋で刀がピタリと止まった。

「なんで殺さな・・・」

「テメェ、さっき何を考えてた」

「へ?」

一瞬、なんの事か分からずに佐助はきょとんとしたが、

次の瞬間には何を言われたのか理解してしまった。

殺さなければならないのに、殺せない。

殺したくない。

そんな自分の思考に、何故?と佐助は思う。

なんで俺様そんなこと考えちゃってんの?とも。

そして、一つの理由に思いあたってしまう。

殺せないのはきっと・・・、

 

好きになってしまったから。

 

「って、無理!言えない!!」

佐助はそう叫んで、小十郎の刀から逃れた。

そして、シュッと姿が消える。

何か術を使ったのだろう。遠くでバサッという鳥が飛びたつ音が聞こえた。

小十郎は刀を鞘に戻し、静かに林を歩きだした。

「・・・テレやがって」

耳まで真っ赤にして逃げだした佐助の顔を思いうかべながら、

小十郎は己の使える主君のもとへと帰っていった。

 

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あとがき

えーと・・、いかがでしょうか? 

少しでも萌え楽しんでいただければさいわいです。

誤字脱字などがありましたら、メールでお知らせ下さい。

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